──いじめ・パワハラ・信頼関係の中で生じたトラウマとPTSDについて
「もう終わったはずなのに、怒りが消えない」
「思い出すと胸がざわつく」
「自分だけが前に進めていない気がする」
このような感覚に悩まされている方は、決して少なくありません。
いじめ被害やパワハラ、あるいは信頼関係の中で深く傷ついた体験は、
心に長く影を落とし、トラウマ反応やPTSD症状として現れることがあります。
本記事では、こうした体験後に起こりやすい心理的反応と、
回復のための考え方・支援の選択肢について解説します。
対人関係による被害体験は「トラウマ」になりうる
トラウマという言葉は、事故や災害だけを指すものではありません。
心理学・精神医学の分野では、
- いじめ被害
- パワハラ・モラハラ
- 信頼関係の中での裏切りや侵害
といった対人関係による被害体験も、
強いストレス源となり、トラウマ反応を引き起こすことが知られています。
こうした体験の後、次のような症状がみられることがあります。
- 怒りや憤りが繰り返し湧いてくる
- 強い自己否定や後悔
- 他人を信じることへの恐怖
- 不安、抑うつ、睡眠の問題
- 過去の出来事が突然よみがえる(フラッシュバック)
これらは心が弱いから起こるものではありません。
人が人を信頼し、関係性の中で生きている以上、
ごく自然な心理的反応です。
「怒りが消えない」のは異常ではない
被害体験の後、
「もう怒るべきではないのでは」
「いつまでも引きずっている自分がおかしいのでは」
と感じてしまう方は多くいます。
しかし、怒りや憤りは
自分の尊厳や安全が侵害されたことを知らせる重要な感情です。
無理に抑え込んだり、
「許さなければならない」と自分に言い聞かせたりすると、
かえって心の中で感情が長期化し、PTSD症状として固定化することもあります。
回復のために大切な3つの視点
1. 「自分にも原因があったのでは」という考えから距離を取る
被害体験の後、多くの方が
「自分が悪かったのではないか」
「もっと違う対応ができたのではないか」
と自分を責め続けてしまいます。
しかし、当時のあなたは
その時点で得られる情報と状況の中で、最善を尽くしていました。
問題はあなたではなく、関係性の中で境界線を越えた行為です。
2. 怒りを「これからの判断基準」に変える
怒りは破壊的なものではなく、
適切に扱えば自分を守るための判断材料になります。
- 不誠実な関係から距離を取る
- 曖昧な責任関係に身を置かない
- 記録・合意・第三者の視点を大切にする
これは冷たさではなく、心の安全を守るための成熟した選択です。
3. 一人で抱え込まない
トラウマやPTSDの特徴のひとつは、
「頭の中で同じ考えを繰り返してしまう」ことです。
安全な環境で、
- 何が起きたのか
- どんな感情が残っているのか
- 今後どう生きたいのか
を整理することは、回復を大きく助けます。
カウンセリングという選択肢
カウンセリングは、
「弱さを示す場所」ではありません。
- トラウマ体験を言語化する
- 怒りや憤りを整理する
- PTSD症状への対処を学ぶ
- 再び人との関係を築く力を取り戻す
そのための専門的なサポートです。
特に、いじめ被害やパワハラなど
対人関係のトラウマは、
第三者の視点が入ることで回復が進みやすいことが分かっています。
参考文献・エビデンス
- Freyd, J. J. (1996). Betrayal Trauma: The Logic of Forgetting Childhood Abuse. Harvard University Press.
- DePrince, A. P., & Freyd, J. J. (2014). Trauma-informed treatment. American Psychologist, 69(6), 635–646.
- Cloitre, M. et al. (2019). ICD-11 complex PTSD. World Psychiatry, 18(3), 287–288.
- American Psychiatric Association. (2022). DSM-5-TR.
最後に
被害を受けた経験があるからといって、
あなたの価値が損なわれたわけではありません。
怒りや憤りが残っているのは、
それだけ真剣に人と向き合ってきた証でもあります。
回復には時間がかかることがあります。
しかし、適切な支援があれば、
人は再び「安心して生きる感覚」を取り戻すことができます。


